名古屋地方裁判所 平成4年(行ウ)22号 判決
原告
八木規彰(X)
右訴訟代理人弁護士
原山剛三
同右
北村栄
被告
佐織北河田土地区画整理組合(Y)
右代表者理事長
八木清一
右訴訟代理人弁護士
大場民男
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 本案前の主張について
従前地が共有地である場合に、仮換地指定処分に違法事由があるとしてその取消しを求めて訴えを提起することは、従前地に対する侵害行為の排除として、従前地の保存行為(民法二五二条ただし書)に当たるから、各共有者が単独でこれをすることができるというべきである。
したがって、被告の本案前の主張は理由がない。
二 本件処分に違法事由は存するか(本案の主張)
1 本件仮換地は、土地の一団性がなく従前地との照応を欠くか。
〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(一) 四六五番は、北側で幅員約五メートルの道路に約一三メートル面し、南側で幅員約〇・六メートルの道路に約一四メートル面する奥行平均約八〇メートルの南北に細長く伸びたほぼ整形な形状の土地である。また、四六六番一は、四六五番の西隣に位置し、北側で幅員約五メートルの道路に約四メートル面し、西側で幅員約六メートルの道路に約一五・七メートル面する整形な角地である。
(二) 四六五番に対する仮換地の位置は、別紙図面三の五街区<1>と七街区<11>である。そのうち、五街区<1>については、別紙図面二に示されているとおり、四六五番にほぼ重なる原位置にあって、北側で幅員六メートルの道路に約一五メートル、西側で幅員八メートルの道路に約三八メートル、南側で幅員六メートルの道路に約一二メートルと三方で道路に面した整形な角地である。また、七街区<11>については、五街区<1>とは幅員六メートルの道路を挟んで南側に当たる四六五番の南側部分の一部と重なる位置に存し、北側で幅員六メートルの道路に約七・五メートル面する奥行約一八・五メートルの整形な土地である。
(三) 四六六番一に対する仮換地の位置は、別紙図面三の七街区<10>であり、右土地は、四六五番の南部分と重なり、右(二)の七街区<11>の西隣に位置し、北側で幅員六メートルの道路に約二メートル面する奥行約一九メートルの整形な土地である。
(四) なお、八木了名義の従前地である愛知県海部郡佐織町大字北河田字郷前四六六番二及び同番三については、同人名義の別の土地と合わせて別紙図面三の七街区<9>及びその西隣の七街区<1>の位置に仮換地指定がされている。
以上の事実に基づいて検討するに、四六五番は南北に伸びた細長い土地で、相当の幅員を有する道路には北側が面していただけであるのに対し(四六六番一と一体として利用することを考慮しても、西側の一部が道路と接するだけである。)、四六五番に対する仮換地は、幅員六メートルの道路をはさんで二か所に分かれているが、五街区<1>の土地は、整形で、北側、西側及び南側の三方において幅員の広い道路に面する著しく利便性の高い土地となっており、また、七街区<11>の土地も整形で幅員の広い道路に面し、その利便性は高いということができる。また、四六六番一の仮換地は、七街区<10>として、七街区<11>の西隣に指定されているので、両仮換地は、従前と同様、一体として利用することができる(両地の面積は合計一七九・九四平方メートルとなる。)。したがって、仮換地が道路で隔てられた二団の土地とされた点を考慮しても、二団の土地はそれぞれ整形で利便の高い土地となっていることからすれば、照応の原則に反するところはないというべきである(なお、八木了名義の従前地に対する仮換地が、七街区<1>、<9>として、七街区<10>の土地の西側に指定されていることをも考慮すると、これらの土地を一体的に利用する場合(合計面積は、三三九・一四平方メートルとなる。)には、その利便性は著しく高いものということができる。)。
よって、原告の主張は理由がない。
2 本件規程一七条一項三号による本件各従前地の減歩について
(一) 四六五番B及び四六六番一は農家の建付地か(四六五番Aは農地か。)。
本件規程一七条一項三号によると、農家の建付地とは、農業を営む者の有する建付地ではなく、本件施行区域内に既存建付地と農地とを所有する者の既存建付地をいうのであるから、四六五番B及び四六六番一が農家の建付地か否かは、四六五番Aが農地といえるか否かにかかっている。ところで、農地とは、耕作の目的に供される土地、すなわち、現に耕作されているか又は現在は耕作されていなくても耕作しようとすればいつでも耕作できるような状況にあると認められる土地をいうものと解され、右は、その性質上、登記簿上の地目ではなく、もっぱら土地の現況(年間の耕作の状況、土地の規模も含まれる。)によって判断すべきものと解される。そこで、右の観点から四六五番Aが農地か否かについて検討するに、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告から委託を受けた中央コンサルタンツ株式会社においては、現況において畑として耕作されているか又は畑として耕作可能な形態を有している土地であるか否かにより本件施行区域内の土地について農地か否かを判断して(土地所有者の職業及び収穫した作物の利用方法については問わない。)換地計画の原案を作成し、それを被告の理事会で検討し、最終的には総会で決定した。
(2) 四六五番A(面積約二四二平方メートル)については、アララギの木によって四六五番B(原告の住宅部分の土地)と区分されている。そして、四六五番Aには、主に原告の母によって一年を通じて野菜が作られており、穫れた野菜は主として自家用として消費されている。
(3) 四六五番Aは、昭和五八年以前から耕作されており、平成四年一一月下旬当時においては、うねがつくられ、長ねぎ、里芋等が栽培されていた。
右事実によれば、四六五番Aは、現に耕作されており、また、その面積は約二四二平方メートルであって、いわゆる家庭菜園の域にとどまるものではないから、農地に当たるというべきである。原告は、原告の職業、耕作者、栽培目的などをあげて右土地は農地ではないと主張するが、前記のとおり農地か否かはもっぱら土地の現況によって判断すべきものであり、原告の右主張は採用することができない(もっとも、本件規程一七条一項三号は、「農家の建付地」という語を使用しており、その点で原告の主張するように所有者の職業が農業であることを要件とするかのような印象を与え、適切ではない。)。
したがって、四六五番Aは農地であるから、四六五番B及び四六六番一は、農家の建付地に当たるというべきである。
(二) 本件規程一七条一項三号は憲法一四条、二九条に反するか。
(1) 原告は、本件規程一七条一項三号は農家の建付地を有する者を合理的な理由なく不利益に扱うものであって憲法一四条、二九条に違反し無効であると主張する。
ところで、本件規程一七条一項は、負担地積の軽減又は免除をすることができる場合について定めているものであり、この規定は、特定の土地につき、本件施行地区内の一般の土地と比較して減歩率を軽減する有利な取扱いをするためのものであると解される。そして、前記第二の一2のとおり、同項三号及び四号の規定は、既存の建付地については、農家の建付地かそれ以外の建付地であるかを問わず、共通負担地積を六五パーセント軽減し、費用負担地積を免除して権利地積を算出し、さらに、減歩率を農家の建付地について三ないし六パーセント、それ以外の建付地について一ないし三パーセントに調整することとしたものであり、これは、既存の建付地は生活の本拠であって、他の土地と同様の減歩を行った場合には、所有者の生活に対する影響が大きく、かつ、移転除去及び補償費がかかるため事業に支障を来すことから、そのような負担地積の軽減ないし免除をすることとしたものであり、農家の建付地の場合には、一般に、面積が広く建物敷地として余裕があるから、純然たる既存の建付地のみの場合より減歩率が高くしても生活に影響するところが少ないという観点から、減歩率の調整についてそれ以外の建付地との間で右の程度の差を設け、後は清算金で調整すべきものとしたものと解される。そうすると、農家の建付地についてそれ以外の建付地との間で右の程度の差異を設けた本件規程一七条一項三号は、合理的な理由のない差別を定めたものということはできず、右のような前提を欠くため、不合理な結果を招来するという特段の事情のある場合にその適用が違憲とされることがあるのは別として、これをもって憲法一四条に反するということはできない。そして、(2)において判示するように、本件においては、右のような特段の事情は認められない。
また、右に判示したように、本件規定一七条一項三号は、施行地区内の一般の土地と比較して減歩率の点で農家の建付地を有利に取り扱う趣旨の規定であるから、財産権を侵害するものとはいえず、憲法二九条に違反するものでないことは明らかである。
(2) なお、〔証拠略〕によれば、
<1> 本件土地区画整理事業の平均減歩率は、二一・七八パーセントであること。
<2> 本件各従前地についての減歩率は、建付地と認定された四六五番B(七一〇・〇三平方メートル)については五・五三パーセント、農地と認定された四六五番Aのうちの五六・〇三平方メートル、一八六・〇〇平方メートルの各部分についてはそれぞれ二三・八一パーセント、二五・二〇パーセント、四六六番一(四二・九七平方メートル)については、五・一〇パーセントであり、これらの減歩率をその面積に応じて加重平均すると、一〇・二パーセントとなること。
が認められ、これによれば、本件各従前地は、本件規程一七条一項三号の適用を受けることによって、一般の従前地よりも減歩率において大幅に有利な取扱いを受けているものとみるべきであり、右規定の適用により原告に対して特に不利益な仮換地指定処分がされたものということはできない。
そして、本件規程一七条一項三号が農家の建付地について同項四号と比較して不利益な取扱いを定めているものであるとしても、その理由は前記(1)のとおりのものであり、しかも、減歩率の差は清算金によって調整されることが予定されているのであるから、この程度の差が生じることをもって、他の従前地所有者との間で直ちに公平を欠くものということはできず、したがって、このような規程を適用してされた仮換地指定処分が法の定める照応の原則に違反するものということもできない。
3 本件各従前地の測量は適法にされたか。
法によれば、被告が土地区画整理事業の施行の準備又は施行のために他人の占有する土地に立ち入って測量し、又は調査する必要がある場合においては、当該土地の区域を管轄する市町村長の認可を受けるべきものとされ(法七二条一項)、立ち入ろうとする日の三日前までにその旨を土地の占有者に通知しなければならず(同条二項)、建築物が所在し、又はかき、さく等で囲まれた他人の占有する土地に立ち入ろうとする場合には、立入りの際、あらかじめ、その旨をその土地の占有者に告げなければならないとされている(同条三項)。
そこで、右要件について検討するに、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(一) 被告は、平成元年四月二七日、被告設立認可の時点における現況道路の把握と従前地の利用状況の調査を目的として、佐織町大字北河田字郷前・字郷西の各一部について、平成元年五月八日から平成二年三月三一日までの間の立入りの認可を同町長に申請し、同町長は、同月二八日、右申請どおり認可した。
(二) 被告は、平成元年五月二日、原告に対し、土地区画整理事業のための測量・調査をする必要があるので中央コンサルタンツ株式会社の社員が佐織町佐織北河田土地区画整理事業施行地区内及びその周辺に平成元年五月八日から平成二年三月三一日までの間に立ち入る旨の内容が記載された「土地の立ち入りについてのお願い」と題する書面を書留郵便によって発送した。
(三) 右中央コンサルタンツの社員は、右(二)の後、平成元年五月ころ、本件各従前地に立ち入って調査を行った。
右事実によれば、本件各従前地に対する立入りについては、法七二条一項の認可を受けており、原告に対しては同条二項の通知がされていたものというべきである。原告本人は、右通知を受けていない旨供述するが採用することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで、原告の自宅が存在する四六五番に立ち入るためには、法七二条三項の規定により、立入りの際に原告にその旨を告げることが必要であるところ、本件においてこれがされたか否かについては明確ではない。しかしながら、仮に本件立入りの手続につき右の点において瑕疵があったとしても、本件立入りは従前地の利用状況の調査を目的とするところ、前記2(一)のとおり従前地の利用状況の認定に違法はなく、処分の結果に影響を及ぼすものとは認められないこと、立入りについて事前に書面による通知がされていたことからすれば、右手続上の瑕疵は軽微であり、本件処分の取消事由には当たらないというべきである。したがって、原告の主張は理由がない。
4 換地設計に関する情報の開示はされたか。
被告の定款(乙七)は、換地計画の決定前に換地計画に基づいて仮換地の指定をしようとする場合には、定めようとする換地設計を二週間利害関係者の縦覧に供することを定め(四九条一項ただし書)、組合員は、縦覧に供された換地設計について意見がある場合には理事に意見を提出できるとしている(同条二項)。そして、右縦覧の手続が履践されている場合には、意見書提出に足りる程度の換地計画の開示がされているものであるから、組合員には換地計画を開示する手続において何ら違法なところはないというべきである。そこで、本件についてこれを見るに、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(一) 被告は、換地設計(権利者全員の従前地・仮換地案)に関する調書・図面について、平成二年五月二八日から六月一〇日までの間、佐織町役場開発課において利害関係者の縦覧に供し、その間、同時に利害関係者に対する説明会を催した。
(二) 原告は、従前地との照応、他の権利者との公平等の確認のため、右縦覧期間中の六月九日に台帳と地図を閲覧した。その際、原告が、台帳をトレーシングペーパーにトレースしようとし、また換地図の写真撮影をしようとしたところ、台帳については、他の権利者の部分につき係官からトレースを止められトレースした部分の一部を消されたが、地図については、五街区の換地図の写真を撮影した。
(三) 原告は、同日、仮換地案の変更を希望し、被告はそのうちの第二希望に沿った形で原告の仮換地案を変更した。
右によれば、被告は、換地設計を利害関係者の縦覧に供しており、説明会も行っているのであるから、換地設計に関する情報の開示につき違法な点はないというべきである。原告は、他の権利者の換地状況についても謄写ができなければ、本件処分が適正なものか否かを確認することが困難である旨主張するが、右確認は換地設計に関する調書及び図面の閲覧によって可能であると解され、謄写しようとした行為が制限されたことをもって換地設計の情報が開示されなかったということはできず、本件処分の違法事由に当たるとすることもできない(なお、原告は、現に変更希望の意見も提出できている。)。したがって、原告の主張は採用の限りでない。
第四 結論
以上の次第で、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 後藤博 入江猛)